視覚制限を持つ人に向け、Beacon技術を使った駅構内案内システム検証が進む「ロンドン地下鉄」 | ITジャーナリスト・鈴木淳也


「Tube」や「Underground」の名称で知られるロンドン地下鉄でのBeacon活用が話題になっている。

一度でも現地で体験したことのある方はご存じだと思うが、車両や通路の狭さだけでなく、100年以上にわたり営業を続けてきたロンドン地下鉄の駅構内は非常に入り組んでおり、土地勘のない者が目的の場所に迷わず移動するのはなかなか難しい。
健常者でさえこうなのだから、視覚に制限のある人ならばなおさらだろう。こうした人々を主な対象に、ロンドン地下鉄でBeacon技術を使った案内システムの実験が進んでいる。

「Underground」「Tube」などの名称で呼ばれるロンドン地下鉄

「Underground」「Tube」などの名称で呼ばれるロンドン地下鉄


ロンドン市内の広域展開も見据えたBeaconによる駅構内音声案内実験

同件はWiredの記事が詳しい(http://www.wired.com/2015/03/blind-will-soon-navigate-london-tube-beacons/)。

デザイン会社のUstwo(http://ustwo.com/)を中心に「Wayfindr」というシステムを開発し、駅構内にBluetooth Beaconを複数配置することで音声ガイドによる道案内の仕組みを実現している。

ロンドン中心部からやや南にあるPimlico駅で4週間のトライアルが行われ、視覚制限のある中でどれだけ周囲の助けを借りずに同駅での音声ガイドが機能するかがテストされた。Pimlico駅は中心部に近いとはいえ、乗り入れ路線はVictoria線のみで主要駅ではない。
今後、より大きく駅構造が複雑で、乗り換え需要もある主要駅や大規模駅を中心に、ロンドン全体への拡大を行っていくのがその目標となる。

今回の話題のポイントは、視覚制限のある人向けの駅構内音声ガイドアプリを開発したという部分よりも、トライアルを経てわかった最適なBeacon配置やシステム構築という点にある。まず、視覚制限があるということで適切な案内を素早く事前に提示する必要があるということ。そして今後の広域展開を考えるうえで「いかに(運用維持を含む)コストを削減するか」が重要となる。

設置されたBluetooth Low Energy(BLE)ベースのBeaconは、自立動作が可能なEstimote製のバッテリ駆動可能なBeacon装置が選ばれ、配置にかかるコストが最小限に抑えられている。
また装置の配置も重要で、ロンドン地下鉄では急なエスカレーターでかなり深い場所に位置するプラットフォームへと移動が必要なケースが多いが、駅構内ではこうしたエスカレーターや通路の天井にBeacon装置を配置することで、可能な限りBeacon信号の到達範囲を広げる工夫がなされている。

基本的に音声ガイドは「Turn-by-Turn」型の要所要所で移動方向を伝える仕組みとなっているが、これは適切なポイントできちんと情報を伝える必要があり、より動作精度を上げるにはBeaconを細かく配置しつつ、信号の発信頻度を上げる必要がある。

今回のケースでUstwoはBeacon信号の発信間隔を秒間10回に設定したものの、Beacon設置数は当初想定の50個以上から、実際には25個が(Pimlico駅のケースで)最適だと後述の理由で判断したという。

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「Underground」「Tube」などの名称で呼ばれるロンドン地下鉄

「Underground」「Tube」などの名称で呼ばれるロンドン地下鉄


視覚制限者向けの最適な案内方法とは

今回の大きなポイントは「視覚制限者向け」の音声案内というところだ。つまり健常者と比較して視覚で得られる情報やその量が異なるわけで、余計な情報付与はかえって混乱を招きかねない。

さらに情報を提示するタイミングも重要で、いくら事前の情報が必要とはいえ10メートル以上も先の移動方法を細かく示されても困ることがあるだろう。おそらくは、今回Ustwoがシステム構築とトライアルにあたって最も腐心したのがこの点だ。

記事中でも「言葉選び」が重要であることが指摘されており、例えば「Diagonal(対角)」という言葉を出されても、視覚に制限のある人にとっては向かいの角が必ずしも見えているとは限らず、おそらくは余計な情報となる。よりシンプルに適切なタイミングで「左」「右」といったシンプルな言葉で移動方向を示すほうがいい。

さらに「適切なタイミング」がいつかも重要で、このあたりの調整がトライアルにおける調査ポイントだったといえる。トライアルの結果わかったことの1つは、弱視などの行動制限のある人々は杖や介助犬、視覚以外の周囲の環境情報(音など)を頼りにある程度の状況把握が可能であり、完全な案内なしでも問題がないということだった。つまり、なるべくシンプルに案内を行うことで、情報提供が過多にならず、前述のようなBeacon装置設置数の削減につながったというわけだ。

Beaconを活用した屋内や地下案内システムの試みはまだスタートしたばかりだが、このような形で少しずつ経験が貯まりつつあり、そう遠くない時期に世界的にさまざまな分野で広く活用されることになると予想している。

ライター・鈴木淳也/Junya Suzuki
NFC、モバイルペイメント、モバイルマーケティング周辺の技術やトレンドを中心に活動を続けるITジャーナリスト。カンファレンスや展示会、展開事例の取材や調査のために世界中を巡る。アスキー(現KADOKAWA)で月刊誌編集に携わった後、アットマークアイティ(@IT、現アイティメディア)の立ち上げに参画。2002年の渡米を機に独立し、以後はフリーランスとして活動を続けている。