薄型軽量の太陽電池Beaconの可能性を考える | ITジャーナリスト・鈴木淳也


Bluetooth Low Energy(BLE)技術をBeacon通信に用いるメリットとして、非常に消費電力が少ないことが挙げられる。Appleが定めるiBeaconの規格では、少なくとも1秒間に10回、つまり100ミリ秒ごとに“アドバタイズ”というBeacon信号の出力を行うことが求められている。この間隔を短くするほどにBeaconの検出精度が上昇するため、「なるべく細かい間隔でアドバタイズを行うことが望ましい」とされているわけだ。当然、このアドバタイズの間隔を短くするごとに単位時間あたりの出力回数が増えるわけで、それがそのまま電力消費量に比例する。

電池寿命をいかに長くするか

iBeaconが大きな注目を集めた理由として、電力消費が極めて少ないというBLEの特性を活かし、小型バッテリ駆動でBeaconのアドバタイズが可能な装置が開発されたというのがある。典型的なのはポーランドのEstimoteの製品だが、乾電池やボタン電池を組み合わせて、手のひらサイズの小型Beacon装置がさまざまなメーカーからリリースされている。一方で、こうした装置が電池の交換なしにどれだけ連続駆動可能かは前述「アドバタイズの発信間隔」に依存しており、多くのベンダーが半年〜1年程度の連続運用を見込んで100ミリ秒以上の発信間隔を設定していた。だが2014年春ごろにAppleが(非)公式にiBeaconの仕様を発表すると、この条件を満たすにはかなりシビアなBeacon装置の設定が必要であることが判明し、各社がその対応に追われた。現在では各社ともに小型乾電池タイプのもので半年〜1年程度の連続駆動時間で落ち着いているが、さらなる省電力化とバッテリ交換サイクルの延長は依然として課題となっている。

Beacon装置の目指す次のトレンド

Beacon装置の用途をさらに広げるには、この省電力とバッテリの問題を乗り越えないといけない。試みの1つとして出てきたのが「太陽電池」の活用で、低消費電力のBLEモジュールを組み合わせることで太陽光のみならず屋内照明でもバッテリ交換なしの連続駆動を可能とする。筆者が2014年4月に開催されたBluetooth Worldでは、Dialog Semiconductorの太陽電池Beaconの試作品を見ることができた。サイズこそ従来型のBeacon装置に近いが、本体上面の太陽電池を使うことで屋内でもバッテリ交換なしの連続駆動が可能だという。ただし、屋内設置では夜間の閉店時間に消灯で給電が止まってしまうが、光の遮断後も内蔵コンデンサで2〜3時間程度は稼働できる。もっとも、閉店中はアドバタイズによるデータ収集を行う必要がないため、その間Beacon装置の動作がストップしても問題はないという割り切りはあるのだろう。写真のDialogの装置は3Dプリンタで作ったサンプルのケースを用いているだけで、太陽電池とBLEモジュールの基板自体は親指サイズだ。今後はこうした太陽電池を使うタイプのBeacon装置が少しずつ増えていくのかもしれない。

Dialog Semiconductorの太陽電池Beacon装置のサンプル

Dialog Semiconductorの太陽電池Beacon装置のサンプル



こうしたなか、3月25日に富士通研究所が興味深い発表を行っている(http://pr.fujitsu.com/jp/news/2015/03/25.html)。それによれば、電池交換などのメンテナンスが不要で、球状や角、湾曲部への設置も可能な厚さ2.5ミリメートル、重さ3グラムの薄型軽量Beaconだという。富士通研究所によれば、従来までBluetoothのような通信モジュールでは起動のために比較的大きな電力を消費するため、その電力確保の制御回路として電源ICや二次電池を搭載する必要があったが、新しい薄型軽量Beaconでは新開発の電源制御技術により太陽電池の電気量だけでBeaconを起動可能になり、小さく薄い部品の組み合わせだけでBeacon装置としての動作が可能になったという。つまり、コンデンサなどの蓄電素子を用いることなく、薄型太陽電池と組み合わせることでさまざまな場所への設置が行える。

富士通研究所では、薄型シートにBeacon装置を展開することで街頭の広告や柱のような曲面に設置できるだけでなく、“伸び”に耐性があることで服や人の腕など、頻繁に変形する素材にも適用が可能だという。また太陽電池との組み合わせで天井や蛍光灯付近に貼付するだけで電池交換のような定期メンテナンスのほとんど不要なBeacon設置が可能になる。これまで、電池交換や電源確保を前提としていたBeacon装置だが、今後の設置プランにいろいろ新しい示唆を与えることになるかもしれない。今後の安定性や実地検証を経て来年2016年度中には実用化を目指すとのことで、非常に楽しみだ。

富士通研究所が開発した電池交換不要の薄型Beacon

富士通研究所が開発した電池交換不要の薄型Beacon



太陽電池Beaconの応用範囲

前段のように、最も効果的なのはビルや施設でのBeacon装置設置だろう。多数のBeacon装置を設置するケースではメンテナンスにかかる手間もばかにならず、コスト削減を兼ねてBeacon装置の数を調整していたケースでは、また違った設置プランが出てくることになるかもしれない。次に注目なのがIoT(Internet of Things)でいわれるところの「センサーネットワーク」で、例えば屋外の雨量や風量を調べるセンサーや、畑で土壌を監視するセンサーなどに太陽電池駆動のBeaconを適用することで、より広範囲にセンサーをまんべんなく設置しやすくなると考える。電池交換の手間の低減もあるが、日中は太陽電池駆動が可能という点も大きい。もちろん夜間は太陽電池駆動できないという問題もあるが、うまくバッテリと組み合わせることで連続駆動時間を延ばすことも可能だろう。

もう1つ興味深いと思ったのが伸縮素材との組み合わせが可能という特性を活かし、服にBeacon装置を仕込むことで「衝突回避センサー」として活用できないかというアイデアだ。Gizmagの「Wearable collision warning device for the visually-impaired」という記事では、視覚に制限のある人たちにスマートフォンを持たせ、設置されたBeacon装置を検出しつつスマートフォンアプリが適切なナビゲーションを行い、移動時の障害物衝突を防ぐというMassachusetts Eye and Ear at Schepens Research Instituteの実験を紹介している。この実験では実際の建物内の構造把握にあらかじめ設置されたBeacon装置を用いているようだが、仮に衣服やさまざまな物品に前述薄型Beacon装置が搭載されることで、動く障害物の衝突回避にも応用できるかもしれない。

セキュリティ上の問題もあり、使い方しだいではあるものの、今後Beacon装置の小型化とバッテリレス化が進み、さらにコストが下がっていくことで搭載可能な場面が増え、いろいろな用途が生まれてくるのではと考える。

ライター・鈴木淳也/Junya Suzuki
NFC、モバイルペイメント、モバイルマーケティング周辺の技術やトレンドを中心に活動を続けるITジャーナリスト。カンファレンスや展示会、展開事例の取材や調査のために世界中を巡る。アスキー(現KADOKAWA)で月刊誌編集に携わった後、アットマークアイティ(@IT、現アイティメディア)の立ち上げに参画。2002年の渡米を機に独立し、以後はフリーランスとして活動を続けている。