街全体をカバーする広域Beaconサービスの今後を考える | ITジャーナリスト・鈴木淳也


Bluetooth Low Energy(BLE)技術を用いたBeacon設置事例は急速に増えつつあるが、そのなかでも注目のものの1つが公共サービスでの利用だ。5月1日付けでAutomatiseringGidsが報じた話題をTelecompaperが伝えているが、オランダのスニーク(Sneek)という街が著名な歴史的ビルや史跡にBeacon装置を設置し、アプリを通じての概要の解説のほか、イベント案内や店舗向けの特別クーポン発行など、さまざまなサービス提供を進めているという。

オランダのある小さな街でのBeacon装置展開が話題に

オランダのある小さな街でのBeacon装置展開が話題に



現在のところはBeacon装置が全部で20個と比較的小規模な展開となっているが、今後の状況を鑑みて、より多くの史跡や美術館、レストランなどの店舗へと展開規模を拡大し、よりサービスを充実させていく意向だという。Beaconとアプリが連動するプラットフォームは「Lightcurb」(Alledaags)というSnakewareとAlledaagsが開発した仕組みを活用し、住人や旅行者らは同アプリをダウンロードすることで利用が可能だ。

スニークは人口3万人程度と比較的小さな街だが、Waterpoortと呼ばれる400年近い歴史を持つ水門施設のほか、Sneekweekという8月に開催されるイベント(http://www.sneekweek.nl/sneekweek/sneekweek-2015?steID=4&catID=2191)など、比較的著名なアトラクションもある。行政主導のBeacon設置事例ということになるが、今後町興しを検討している日本国内の自治体にとっても、参考になる動きの1つではないだろうか。

Beacon活用サービスの範囲拡大とともにプライバシー懸念も

行政主導での積極的な特定都市へのBeacon設置という事例はまだ比較的珍しいと考えられるが、一方で個々のサービス事業者が実験的に小規模な都市やイベントにBeaconを設置したり、あるいは大都市の比較的広い範囲でBeaconを設置して顧客誘導や情報サービスを行うという事例は比較的多いと考えられる。前者の事例の1つはSXSWで利用された会場案内Beaconが有名だが、これもBeacon装置設置数が昨年2014年の40から今年2015年には1000個単位まで一気に拡大するなど、一定の成果があったことを証明している。おそらくはオランダのスニークでのケースはこれほどの拡大は見込めないと思われるが、今後こうした事例はより増えてくるだろう。

ただし懸念もある。最近では米公正取引委員会(FTC)が、情報収集事業者のNomi Technologiesと争って和解したことが話題になった(http://www.ibtimes.com/ftc-settles-nomi-technologies-alleges-beacon-maker-lied-about-tracking-customers-1894612)。同社は自身のサービスの顧客である店舗等に設置されたセンサー装置で、来店者が持つモバイルデバイスのMACアドレスを無断で収集し、これを行動解析に活用していたという。スマートフォンでは特に機能をオフにしない限りはWi-Fi機能が有効になっており、範囲内にあるWi-Fiデバイスであれば相手のMACアドレスが簡単に収集可能になっている。これを複数箇所に設置されたセンサーで情報をリアルタイムに集めバックエンドで集計を行えば、ユニークな番号であるMACアドレスから容易に特定ユーザーの行動が把握できるというわけだ。FTCの声明によれば(https://www.ftc.gov/news-events/press-releases/2015/04/retail-tracking-firm-settles-ftc-charges-it-misled-consumers)、今回の問題はNomiが収集対象となるスマートフォンを持つ利用者の許諾なしにデータ収集を行っていた点にあるという。同件を報じたIB Timesでは、米ニューヨーク市が、公衆電話ブース(同市ではすでに多くの公衆電話が撤去されてブースのみが残っている)や街頭広告を使って同種の仕組みを構築していた事業者に対して、一斉撤去を命じた事例も紹介している。

米ニューヨークでは位置情報サービスと連動させた人の移動追跡記録が問題に。今後プライバシー関連の問題は必ず位置情報サービスとセットになって語られることになるだろう

米ニューヨークでは位置情報サービスと連動させた人の移動追跡記録が問題に。今後プライバシー関連の問題は必ず位置情報サービスとセットになって語られることになるだろう



今回はMACアドレス収集が容易なWi-Fiゆえの問題であり、BLEを用いるBeaconでは若干事情が異なる。Beacon(iBeacon)ではアドバタイジングと呼ばれるBeacon装置が一方的に出力する識別情報をスマートフォンなどのスマートデバイスが受信し、これをアプリ側が識別処理することで「店舗でのチェックイン」や「リアルタイムでの(位置情報をベースにした)情報配信」が実現されている。つまりBLE Beaconの仕組みでは、店舗等に設置された固定センサー(Beacon装置など)だけではユーザー個別の行動情報を完全に把握するのは難しく、該当するBeaconに反応するアプリ側に何らかの仕掛けを施す必要がある。

一方で、今回のテーマである「街全体をカバーするBeaconサービス」「複数の店舗や施設をまたがって利用できるBeaconアプリ」が今後続々と登場してきた場合、情報収集とデータ活用の妥当性や許諾(Consent)を巡り、プライバシー侵害の問題が大きく取り沙汰されるケースも増えてくるだろう。2011年ごろにiPhoneやAndroidスマートフォンで位置情報収集に関する問題が大きく取り上げられ話題となったが、Beaconサービスについても位置情報を扱うという性質上、いずれは避けて通れない問題となるだろう。